『捏造の科学者 STAP細胞事件』を調査報道のあり方から考える

JUGEMテーマ:読書

【ブログ用/201753日】

 世間を騒がせた「STAP細胞騒動」から、早3年余りが経つ。この出来事を、世界的大発見の記者会見からずっと追い続けた記者の渾身の労作を読んだ。

 

村木事件を暴いた朝日新聞記者たちのルポ『証拠改竄 特捜検事の犯罪』を想起した。地道な調査報道による事件告発という共通点があるからだけではない。

 本来あってはならないはずのとんでもない不正の端緒を知った記者たちが、納得がいくまで取材をやめないという根気と情念。さらに、その記者たちに共鳴するように集まってくる極秘情報。

 そして、取材を進めれば進めるほど、取材者への風当たりも強くなるし、継続するために凄まじい精神力が求められる。その葛藤は、長時間読んでいられない苦痛すら感じる。

 

 一見、全く異なる別世界のエリート集団の事件なのだが、本質を突き詰めると一つの共通項が見つかる。

 すなわち、両フィールドの前提が、善意で倫理的でフェアであるという性善説が担保されている点だ。

 なぜ、フェアが担保できるのかといえば、法律家も博士号取得者も、長い学習と資格取得を経ていく中で、フェア精神を学んできたという暗黙知がある。

 検事は、証拠が全てであり、科学者にとっては実験結果が全てだ。それらから得られたことをfactとして、積み上げた結果、ある解に至る――。その過程は崇高なほどの潔癖性があるものだと皆が信じている。それは「神話」と呼んでいいのかも知れない。

 

 しかし、そこに人間の欲望や組織防衛、さらには失敗を認めない閉塞性が加わると、神話は腐敗し、崩壊する――

 

 悲しいけれど、これは人類が存在する限り、永遠に続くだろう。

 だからこそ、報道などの監視が必要になる。

 

 

 このところ、調査報道のあり方的なことを考えることが多く、久しぶりにブログの画面を開いたのも、本書から見えてくる調査報道について考えてみたくなったからだ。

 したがって、STAP騒動については、今回は敢えて深く言及せず、それは改めて別の形でしっかりと発表したい。

 

 先に結論を言うと、本書は、調査報道の一つのモデルとなる素晴らしい書だと思う。著者の須田桃子氏は、報道の本質である事実の裏付けがあっての報道で我が身を縛りながらも、自らの好奇心と疑問の答えを追い続けた

 

 記者(ジャーナリストと呼んでもよい)は良い人である必要はない。記者の使命は、権力者や不正を働いた者が隠そうとする真実を暴くことにある。そのためには手段を選ばず裏付け(fact)を探し続ける。

 本書の著者である須田桃子記者を極悪人のように言う人が、相当数いるそうだ。

 まるで脅迫者のように土足で踏み込んでくる卑劣な輩という評価すらある。

 しかし、メディアに正義を求めたいなら、須田記者の行為こそ、正義を守る過程で必須のスタンスだ。

 むしろ、感動的なぐらい愚直に、記者としての王道を突き進んでいる。

 

 記者は、道徳家でも、聖職者でもない。「人としてカス」と呼ばれても、社会に伝えるべき事実を手に入れる努力を怠ってはならない。

 だから、野蛮で下品であり、時に卑劣でもある。しかし、彼らがそういう行動が取れるのは、彼らが法律家や科学者が持つのと同種のモチベーションがあるから。それは、正義からも知れないし、使命かも知れない。

 

また、一部からは、須田記者の思い込みで読者を洗脳して、問題の結論を決めつけているという批判もあるが、これも誤りだ。

 そもそもが記事が客観的というのは幻想で、そこにはその原稿に関わった多くの当事者の主観が入る。しかし、その主観を関係者が衝突させることで、バランスが保たれる。何より、検事が証拠を、科学者が実験結果に拠り所にするのと同様に、記者は、事実(関係者の証言を含む)を拠り所にしている。

 すなわち、記者の意見は、常に事実に裏付けられている。

  尤も、記者が取材する証言者に思惑があり、ウソをつく者、ミスリードする者が少なからずいる。だから、可能な限り多くの立場の異なる専門家に取材をするのだが。

 

  別の記者が、同じ事実を手にしても別の解釈することもある(おそらく毎日新聞社内でもあったはず)が、最終的に、多くの関係者の目を通り、意見の衝突があって紙面化される。したがって、別の記者、別の社が同じ事実から別の主張をするのは当たり前のことなのだ。逆に、発表原稿ばかりに頼って、どの紙面を見ても口調まで同じにしか書かれていない記事は危険なのだ。

 

 須田記者が素晴らしいのは、自らが主観で走りそうなのを、必ず当事者に問いかけ、答えをもらい、さらに周辺の専門家の意見を聞いていること(無論、専門家のチョイスにも主観は入るが)。

 彼女の頭の中ではとっくに導き出されているはずの結果を否定するための材料を探しすらしている。

 

また、間違えてはいけないのは、記者は裁判官ではないこと。記者は忖度しないし、自粛しない。自分で勝手な解釈をしない。意見を紙面化する時は、事実の裏付けを踏まえて行う。

  読者が記事を読んで、怒ったり、記者が意図したのとは反対のリアクションがあっても、伝えるという使命としては役割を果たしている。

  記者の仕事は、知ったことを、紙面化する時のルールに則り、可能な限り全て原稿にする。それを、キャップやデスク、校閲、所属部長などがチェックして、それでも紙面化すべきだと判断されれば、記事になる。情報発信者である記者が原稿化するかどうかを判断してはいけない。

 

 極論を言えば、記者が常に正しいわけではない。ただ、取材から導き出された事実を伝えているだけだ。

そういう意味では、記者は正義の味方だと思い込むのは誤りだ。記者個人の正義漢に則っていても、結果としては、善意の人を糾弾することもあるし、自覚がないささやかな不正程度にしか考えていない一般人を叩くこともある。

 記者が行うのは、この出来事、事件、人について、取材でこんな事実が分かった。さらに、各方面の専門家はこんな風に言っていると伝えるだけ。

 それを、紙面に並べて、読者に様々な感想や批判や怒りや感動を感じてもらのが仕事なのだ。

 

 そうしたことを踏まえて、本書は調査報道の一つのひな形であることは間違いない。

 

https://www.amazon.co.jp/%E6%8D%8F%E9%80%A0%E3%81%AE%E7%A7%91%E5%AD%A6%E8%80%85-STAP%E7%B4%B0%E8%83%9E%E4%BA%8B%E4%BB%B6-%E9%A0%88%E7%94%B0-%E6%A1%83%E5%AD%90/dp/4163901914/ref=sr_1_1?s=books&ie=UTF8&qid=1493792691&sr=1-1&keywords=%E6%8D%8F%E9%80%A0%E3%81%AE%E7%A7%91%E5%AD%A6%E8%80%85

 

 

 


『捏造の科学者 STAP細胞事件』を調査報道のあり方から考える

JUGEMテーマ:読書

【ブログ用/201753日】

 世間を騒がせた「STAP細胞騒動」から、早3年余りが経つ。この出来事を、世界的大発見の記者会見からずっと追い続けた記者の渾身の労作を読んだ。

 

村木事件を暴いた朝日新聞記者たちのルポ『証拠改竄 特捜検事の犯罪』を想起した。地道な調査報道による事件告発という共通点があるからだけではない。

 本来あってはならないはずのとんでもない不正の端緒を知った記者たちが、納得がいくまで取材をやめないという根気と情念。さらに、その記者たちに共鳴するように集まってくる極秘情報。

 そして、取材を進めれば進めるほど、取材者への風当たりも強くなるし、継続するために凄まじい精神力が求められる。その葛藤は、長時間読んでいられない苦痛すら感じる。

 

 一見、全く異なる別世界のエリート集団の事件なのだが、本質を突き詰めると一つの共通項が見つかる。

 すなわち、両フィールドの前提が、善意で倫理的でフェアであるという性善説が担保されている点だ。

 なぜ、フェアが担保できるのかといえば、法律家も博士号取得者も、長い学習と資格取得を経ていく中で、フェア精神を学んできたという暗黙知がある。

 検事は、証拠が全てであり、科学者にとっては実験結果が全てだ。それらから得られたことをfactとして、積み上げた結果、ある解に至る――。その過程は崇高なほどの潔癖性があるものだと皆が信じている。それは「神話」と呼んでいいのかも知れない。

 

 しかし、そこに人間の欲望や組織防衛、さらには失敗を認めない閉塞性が加わると、神話は腐敗し、崩壊する――

 

 悲しいけれど、これは人類が存在する限り、永遠に続くだろう。

 だからこそ、報道などの監視が必要になる。

 

 

 このところ、調査報道のあり方的なことを考えることが多く、久しぶりにブログの画面を開いたのも、本書から見えてくる調査報道について考えてみたくなったからだ。

 したがって、STAP騒動については、今回は敢えて深く言及せず、それは改めて別の形でしっかりと発表したい。

 

 先に結論を言うと、本書は、調査報道の一つのモデルとなる素晴らしい書だと思う。著者の須田桃子氏は、報道の本質である事実の裏付けがあっての報道で我が身を縛りながらも、自らの好奇心と疑問の答えを追い続けた

 

 記者(ジャーナリストと呼んでもよい)は良い人である必要はない。記者の使命は、権力者や不正を働いた者が隠そうとする真実を暴くことにある。そのためには手段を選ばず裏付け(fact)を探し続ける。

 本書の著者である須田桃子記者を極悪人のように言う人が、相当数いるそうだ。

 まるで脅迫者のように土足で踏み込んでくる卑劣な輩という評価すらある。

 しかし、メディアに正義を求めたいなら、須田記者の行為こそ、正義を守る過程で必須のスタンスだ。

 むしろ、感動的なぐらい愚直に、記者としての王道を突き進んでいる。

 

 記者は、道徳家でも、聖職者でもない。「人としてカス」と呼ばれても、社会に伝えるべき事実を手に入れる努力を怠ってはならない。

 だから、野蛮で下品であり、時に卑劣でもある。しかし、彼らがそういう行動が取れるのは、彼らが法律家や科学者が持つのと同種のモチベーションがあるから。それは、正義からも知れないし、使命かも知れない。

 

また、一部からは、須田記者の思い込みで読者を洗脳して、問題の結論を決めつけているという批判もあるが、これも誤りだ。

 そもそもが記事が客観的というのは幻想で、そこにはその原稿に関わった多くの当事者の主観が入る。しかし、その主観を関係者が衝突させることで、バランスが保たれる。何より、検事が証拠を、科学者が実験結果に拠り所にするのと同様に、記者は、事実(関係者の証言を含む)を拠り所にしている。

 すなわち、記者の意見は、常に事実に裏付けられている。

  尤も、記者が取材する証言者に思惑があり、ウソをつく者、ミスリードする者が少なからずいる。だから、可能な限り多くの立場の異なる専門家に取材をするのだが。

 

  別の記者が、同じ事実を手にしても別の解釈することもある(おそらく毎日新聞社内でもあったはず)が、最終的に、多くの関係者の目を通り、意見の衝突があって紙面化される。したがって、別の記者、別の社が同じ事実から別の主張をするのは当たり前のことなのだ。逆に、発表原稿ばかりに頼って、どの紙面を見ても口調まで同じにしか書かれていない記事は危険なのだ。

 

 須田記者が素晴らしいのは、自らが主観で走りそうなのを、必ず当事者に問いかけ、答えをもらい、さらに周辺の専門家の意見を聞いていること(無論、専門家のチョイスにも主観は入るが)。

 彼女の頭の中ではとっくに導き出されているはずの結果を否定するための材料を探しすらしている。

 

また、間違えてはいけないのは、記者は裁判官ではないこと。記者は忖度しないし、自粛しない。自分で勝手な解釈をしない。意見を紙面化する時は、事実の裏付けを踏まえて行う。

  読者が記事を読んで、怒ったり、記者が意図したのとは反対のリアクションがあっても、伝えるという使命としては役割を果たしている。

  記者の仕事は、知ったことを、紙面化する時のルールに則り、可能な限り全て原稿にする。それを、キャップやデスク、校閲、所属部長などがチェックして、それでも紙面化すべきだと判断されれば、記事になる。情報発信者である記者が原稿化するかどうかを判断してはいけない。

 

 極論を言えば、記者が常に正しいわけではない。ただ、取材から導き出された事実を伝えているだけだ。

そういう意味では、記者は正義の味方だと思い込むのは誤りだ。記者個人の正義漢に則っていても、結果としては、善意の人を糾弾することもあるし、自覚がないささやかな不正程度にしか考えていない一般人を叩くこともある。

 記者が行うのは、この出来事、事件、人について、取材でこんな事実が分かった。さらに、各方面の専門家はこんな風に言っていると伝えるだけ。

 それを、紙面に並べて、読者に様々な感想や批判や怒りや感動を感じてもらのが仕事なのだ。

 

 そうしたことを踏まえて、本書は調査報道の一つのひな形であることは間違いない。

 

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